5月27日。
高山植物のツクモグサが見頃を迎えたようなので、土曜日の夜に八ヶ岳の麓の赤岳山荘の駐車場に向かった。中央自動車道から諏訪南インターまでは順調に走ることができたが、美濃戸から赤岳山荘までの悪路は相変わらずで、車の底を擦らないように慎重に進んだ。
無事に赤岳山荘駐車場に到着。
翌日の早朝に出発できるように車内で眠りについた。
行者小屋経由で赤岳山頂へ
諸々の準備を整えて5時前に赤岳山荘駐車場を出発。
今回は八ヶ岳の南沢コースから沢沿いを歩き、行者小屋で休憩した後に文三郎道を歩いて赤岳に登る。そこからツクモグサの咲く横岳周辺を散策し硫黄岳山頂を経て赤岳鉱泉方面に下山していくというプラン。
苔むした南沢コースを歩く
この辺りは朝を迎えても標高の高い山が太陽を遮っているためか薄暗い。しばらくは苔むした鬱蒼とした静かな登山道を歩く。
薄暗い樹林帯の足元にはホテイランが小さく遠慮がちに咲いていた。
登山度は沢の脇を並行して続き、さらに登っていくと白河原に出る。
ここからは水のない枯れた沢を登る。少し歩いたところで先行する登山者が脇道に入っていくところを目にした僕はその後をついていった。
白河原から右の脇道に入ると苔むした雰囲気のある樹林帯が広がっていた。白河原あたりから出てきた太陽が樹林帯の中にも陽を落としていた。潤いのある濃い緑、そしてそこに差し込む光、森の中に静かに広がっていく朝の雰囲気がたまらない。
行者小屋でトイレ休憩
樹林帯を抜けると再び白河原の登山道に合流し、少し歩くと行者小屋が見えてくる。
行者小屋は6月に入ってからの営業開始ということで、テント場・トイレ・水場の利用のみが可能な状態だった。
僕はここでトイレを済ませ、赤岳山頂へ向けて文三郎道へ向かった。
文三郎道を登って赤岳山頂へ
行者小屋を出てすぐのところにはまだ雪が残っていたが、アイゼンやチェーンスパイクなどが必要な量ではなかった。
木々に囲まれた道をじわじわ登っていくと景色が徐々に開けてくる。
文三郎道はひたすら階段を登っていく急登で、1段ごとの段差はそれほどないが斜度はなかなかのもの。
登っては休んでを繰り返しながらじわりじわりと高度を上げていく。なかなか足が進まず途中で後続に追い抜かれてしまったが焦る必要はない。
赤岳と阿弥陀岳の分岐に到着。
阿弥陀岳にも登りたくなってくるが、今回の目的やツクモグサ。
赤岳方面に進んだ。
この日は南アルプスはよく見えたが、富士山は残念ながら見えなかった。
ザレた道をしばらく歩き、ゴツゴツした岩場を登ったところに赤岳山頂がある。
赤岳の山頂に到着!
赤岳の山頂は狭く平坦な場所がないので、登頂の余韻を味わったところですぐ先にある赤岳頂上山荘に移動した。
赤岳頂上山荘でラーメンを食べようと思い、小屋に入ってスタッフの方に声をかけてみると、「いま掃除中なので食事はまだしばらく出せません」と言われてしまい断念。
小屋の外で行動食をポリポリ食べて、ツクモグサの群生する横岳周辺に向かう。
高山植物のツクモグサを愛でる
赤岳頂上山荘から赤岳展望荘までザレた斜面を下り、そこから今度は横岳に向けて登り返す。
横岳に向かう途中の岩壁あたりがツクモグサの群生地。
しばらく歩いたところでしゃがみこんで写真を撮影している人が目に入った。
すると写真撮影している方のそばで立っていた男性から「ツクモグサ見ていってあげてください」と声をかけられた。
どうやらツクモグサ群生地に到着したようだ。
しゃがみこんでいる方に近づいてみると、ツクモグサがあちこちに生えていることが確認できた。
足元にあるツクモグサは綺麗に咲いていた。
ツクモグサは北海道、北アルプスの白馬岳周辺、そして八ヶ岳の横岳周辺の3ヵ所にしか生息していない希少性の高い高山植物で絶滅危惧種に指定されている。
横岳ではツクモグサの群生地に登山者が入り込まないようにロープを張って保護している。
ツクモグサは人目を避けるように岩壁よりに群生しており、なかなか距離を詰めて撮影することが難しかった。
カメラのズームレンズの倍率がもっとあればなあと思う場面が多かった。
横岳の山頂に到着!
ツクモグサを撮影し終えて満足げに歩いていたら横岳の山頂に到着した。
横岳山頂からは硫黄岳山荘に一旦下る。
ここまで行動食しか食べていない僕は、そろそろまともな食事を摂りたいと思い、硫黄岳山荘に立ち寄ってみることにした。
硫黄岳山荘で絶品のカレーライスを食す
硫黄岳山荘に入りカレーライスとコーラを注文。
硫黄岳山荘のカレーライス
冷えたコーラを飲みながら待っているとカレーライスがテーブルに置かれた。
スプーンの通りの良いサラリとしたカレーではなく、ねっとりどろりとした密度の高そうなルーだった。味はスパイスが効いていてピリリと辛め。
山小屋のカレーはレトルトっぽいものが多いが、硫黄岳山荘のカレーは市販とは思えないクオリティだった。
とても美味しかったので、小屋のスタッフさんに「このカレーすごく美味しかったんですけどオリジナルですか?」と聞いたところ「そうですよ。でも調理する人の気まぐれの味付けなので毎日同じカレーじゃないんです^^」と言っていた。
食後は同席していたご夫婦と今日の朝からの行程やこの後のことなどを談笑した。僕より先に休憩していたご夫婦は「それではお先に。でも途中で追い抜かれちゃうかもね。」といって硫黄岳山荘を出て行った。
硫黄岳山荘のトイレは洋式・水洗・ウォシュレット!
小屋の中ですこしまどろんで、出発前にトイレを借りることにした。
硫黄岳山荘のトイレは数年前に時計回りで硫黄岳・横岳・赤岳と歩いた際に利用して、とても綺麗な印象を持っていた。そんな硫黄岳山荘のトイレだから安心して利用できると思って中に入ったところ、洋式トイレが水洗になっていてしかもウォシュレット付に進化していた!
これまで色々な山小屋でトイレを使ってきたが、水洗でウォシュレット付というのは初めてだった。しかも手入れが行き届いていてすごく綺麗。
トイレットペーパーは処分の関係で足元のダンボール箱に捨てる仕組みにはなっているものの、ここまで綺麗で使いやすいトイレは初めてで感動してしまった。
カレーライスの後にこんな話で恐縮だが、硫黄岳山荘に立ち寄った際はカレーライスとトイレをぜひ試してみて欲しい。
硫黄岳山頂へ
硫黄岳山荘で休憩した後は、本日最後のピークである硫黄岳の山頂を目指す。
・・・と言ってもそこまで気張る必要はなく、硫黄岳山荘から緩やかな登山道を少し登るだけ。
硫黄岳の山頂はのっぺりとしている。
周辺に大きなケルンが何個も設置されているのは、ガスで遠くまで見渡すことができなくなった時に道迷いを防ぐためだと言われている。
硫黄岳の爆裂火口。
硫黄岳は赤岳方面から見ると丸みを帯びたなだらかな山に見えるが、その反対側は火山の噴火によって山の一部が吹き飛んでしまっている。
えぐれるように吹き飛んだ火口は断崖絶壁になっており非常に危険。足元には「これ以上先は危険です」と言わんばかりにロープが張り巡らされている。
下山
咲いているツクモグサを撮影することができたし、赤岳・横岳・硫黄岳の3つのピークも無事に踏むことができたので、赤岳鉱泉方面へ下山する。
硫黄岳周辺は休憩にもってこいの場所ではあったものの、硫黄岳山荘で長めの休憩をとったばかりだったので、休まずに下山することにした。
カモシカに出会う
赤岳鉱泉へ向けて歩き出してすぐのところで、登山者がすれ違いざまに僕の右後方を指さして「×××」と聞き取れない言葉で話しかけてきた。「はい?」と聞き返すと「カモシカがいますよ」と教えてくれた。
振り返ってみるとカモシカがこちらをじっと見つめていた。
カメラを向けてしばらく撮影している間もカモシカは大人しくじっとこちらに視線を向けてくれた。しばらくすると飽きてしまったのか、岩の向こう側にひょいと体を移動させて見えなくなってしまった。
ツキノワグマに出会うのは勘弁だが、人間に害を加えてこない野生動物は大歓迎!
その後は硫黄岳山荘でお会いしたご夫婦を途中で追い越し、樹林帯の中を黙々と歩いた。
赤岳鉱泉で衝撃の事実が発覚
14:30
赤岳鉱泉に到着。
時間に余裕があるので、このまま下山して日帰り登山として終わらせることもできるが、休みを2日間取っていたので、赤岳鉱泉にテント泊していくという選択肢もある。
小屋の中に入って本日の晩御飯について書かれた黒板を見ると「ステーキ」と書かれていた。
今回の登山では、赤岳鉱泉の晩御飯がステーキだったらテント泊していこうと決めていた。つまりそういうことである。
バックパックを置いてテントを張る場所を確保し、小屋に向かおうとしたところ、思いもよらぬ事実が発覚した。
テントポールを忘れた・・・。
小屋でペプシコーラを買って小屋の外で飲み、バックパックを背負ってステーキのことを考えながら再び歩き出した。
赤岳山荘へ
赤岳鉱泉から登山口の赤岳山荘までの北沢コースは比較的なだらかな下り。
しばらく沢沿いを歩き、林道に入ってからは何の変化もない道をただただ黙々と歩く。できることなら走って時間を短縮したいところだが、そういう体力は残されていなかった。
赤岳山荘の駐車場に到着
15:30
変化のない退屈な林道を歩き、車を停めてある赤岳山荘の駐車場に到着した。
その後は中央自動車道のハードな渋滞に巻き込まれ、途中で仮眠をしたり休憩したりを繰り返しながらジワジワと自宅に向かって車を進めた。
家に着いたのは22時過ぎ。
テントのポールを忘れた僕がぜんぶ悪い。
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